「アイアムアヒーロー」
花沢健吾の人気コミックの映画化作品。
漫画アシスタントの鈴木英雄(35歳)は連載も持てず、同棲中の彼女ともうまくいかず、人生に行き詰まっていた。一方首都東京では感染した者が凶暴になり人々に襲いかかる謎の感染症が徐々に流行の兆しを迎えつつあった、そして突然訪れたパンデミックの大混乱のなか英雄は、偶然出会った女子高生の比呂美とともに郊外に脱出する…。
緻密な日常描写とそこに突然舞い降りる非日常のバランスが見事な漫画の映画化とあって非常に楽しみにしていた本作。また、ゾンビ映画(この作品内ではZQNと呼ばれる)は数多くあれど現代の日本を舞台にした(ちゃんとした)ものはなかなかお目にかかれないので期待して鑑賞した。
まず、何と言っても主演の鈴木英雄を演じた大泉洋が素晴らしかった。漫画版を完全再現した外観もそうだが、おどおどした情けない男の演技がぴったりとハマっていたし、そこから抜け出そうとする泥臭い感じも素敵だった。
パニック映画にありがちな「なぜこうしない!」「なぜそこで撃たない!」という苛立ちも無いわけではないにせよ、彼の演技とキャラ作りの力によってギリギリ抑えられていたように感じた。
それからゾンビ映画である本作、グロテスクなシーンが随所に出てくるのでそれに耐性のない人は注意が必要だ。グロい展開の連続に私のお隣の老夫婦は早々に切り上げて行ってしまった…。
また、最近の映画にありがちなように前編後編で分けて上映したりしないで、一応は物語を完結させたあたりは潔さを感じてよかった、ただ、感染症の原因や比呂美の生い立ちなど回収できていない伏線はかなり多く見られたが…。
その点で言えば、ヒロインである比呂美の持つ原作と同様のある設定は残念ながら生かしきれていないと感じた、いやむしろ映画版であの設定は邪魔にさえ感じた。中盤をスピードダウンさせて中途半端に入れ込むくらいなら、比呂美ごとバッサリカットしても良かったのではないか。それともやはり続編ありきで作ったのだろうか…。
それにしてもゾンビ映画でここまで発砲数が少ない映画は日本を舞台にしないとできないのではないだろうか。逆を言えば発砲天国アメリカ合衆国の人がこの映画を見たらどう思うのだろうか。
せっかく散弾銃を持っているのになかなか発砲しない主人公にイラついたり、「ショッピングモールにたどり着いたのになぜ銃砲店に行かない!」とテキサス州でトラック運転手をしている全米ライフル協会会員のボブさんは思うことだろう。拳銃が厳しく取り締まれれている国でよかったと思う反面、ゾンビにはめっぽう弱い国、それが日本だ。