「ウサギと行く春の京都旅① ウサギのヌッツォと血痕探し、33歳徒歩京都」
3月22日の14時、ほんのすこし小雨がぱらつく京都の街に私とピンクの歩く毛玉ことスキウサギは降り立った。
一昨年の広島旅行以来の遠出に私もウサギもテンションはかなり高めだ。
その証拠に駅前でウサギが外人っぽいことを叫んでいる。
普段、家にいて漫画を描くか散歩をするかの二択しかない私にとって、この遠出はかなり貴重なもの、我々は早々に予約してあった東本願寺前のホテルにチェックインした。
なかなか広々として気持ちの良いお部屋、というか、どんなホテルだろうと、毎回知らない人の家に上がり込んだみたいでかなり嬉しくなるのではあるが。
部屋にある、大きな障子の窓をガラガラと思い切りよく開けると、そこには東本願寺のすばらしい景色が、あるはずもなく、窓一面に隣家の壁が広がっていた。
「なんか『マトリックス』っぽい」とウサギがぽつりと呟いた。
気を取り直して、私はさっそく上下をランニングウェアに着替え、京都の街に手ぶらで躍り出た。
目的地は新撰組が最初期に屯所を構えた八木邸。
走って走って、疲れたら歩いて、歩道橋を駆け上って、時々足を止めて…、知らない街を走るのはやっぱり楽しい。
そして、思ったよりも早く目的地に到着してしまった。
まずは壬生寺をお参りする、この寺で新撰組は大砲の調練をしてひんしゅくを買ったり、沖田総司が近所の子供鬼ごっこをして遊んだそうだ。
ここのお寺の資料館にある手帳にキューライスのサインとイラストを記入しておいたので、行った方は探してみてはいかがかだろうか。
我慢できなくなったウサギの口からヌッツォの例の歌が飛び出し始めたので、いよいよ、壬生寺の隣にある八木邸を訪れる、ガイドと見たあとに出されるお抹茶と屯所餅(すごい名前)がセットで1000円だ。
あの青春と権謀術数、夢と挫折にまみれた超実戦的剣客集団の一群が歩き、走り、襲い、寝転んだ屋敷がこの2018年の現代に遺っている、その奇跡!ありがとう!
芹沢鴨が寝込みを襲われ、隣室に転がり込む時に文机に足を取られ、転んだところを滅多斬りにされた部屋と、その文机が残っていて感動する。
お互いに歴史好きな私とスキウサギはしげしげと部屋の隅から隅まで舐め回すように、観察した。血痕を探しているのである。
大満足で八木邸を後にして、ウサギと無言で抹茶をすすり、屯所餅をモニュった。
屯所餅は白い餅に京野菜の緑のコントラストが美しかった、甘い。
(ちなみにキューライスがここを訪れるのは二回目である)
八木邸をあとにした我々の気分はもはや上洛したて、血気盛んな壬生狼のそれであった。時刻は15時50分まだ日はある、このまま二条城に馳せ参じて松平容保さまをお守りするのだ!
ダッと駆け出す私とウサギ。33歳のやる行動とは思えないが、徒歩で駆けつけると屯所から二条城までの距離を実感として得られるので楽しい。
16時10分ごろ、あっという間に二条城に到着して、さあ、殿の元へ、と思ったら入館は16時で締め切られていた。
突然、素に戻ってしまった我々、目的を見失ってなんとなくトボトボと京都駅方面に歩を進めた。そこで私の携帯に着信があり、前の会社のプロデューサーからCMの企画を出してくれないかという問い合わせが来る。
旅行先でかかって来る仕事の電話ほど興を削がれるものはない…。
急にテンションが下がってしまった私、このままではいけない、さっきかかってきた電話のことは忘れて(ほんとうに忘れた)、私は次の目的地を決めた。
そうだ、祇園だ。
祇園四条。
ここに行こう。なんか華やかで栄えてるっぽいし!
そして、再び一人と一匹は走り出したのだった。
もちろん徒歩だ。
つづく。