キューライス記

1985年生まれの男。漫画、イラスト、アニメーションなどを描きます。お仕事のご依頼はこちらのアドレスにどうぞqraisqrais@gmail.com。       キューライス制作の短編アニメーション「鴨が好き」公開中https://www.youtube.com/watch?v=48-RA4BNXVc

「ジーザス・クライスト・スーパースター」2000年版

今日はクリスマス。私は朝からずっとMacにしがみつき、新作アニメーションの着色作業をしている。

お昼ご飯はブリの照り焼きを作った。

 

そんなクリスマス気ゼロの私が、せっかくクリスマスなのだからそれらしい記事をと思い、今日は「ジーザス・クライスト・スーパースター」について書きたいと思う。

 

オペラ座の怪人」「キャッツ」など数々の名作ミュージカルを生み出したアンドリュー・ロイド・ウェバーと、「アラジン」「ライオンキング」などディズニー映画の作詞を手がけたティム・ライス。二人の名を世に知らしめた大ヒットブロードウェイミュージカル、それが「ジーザス・クライスト・スーパースター」だ。

 

人間としてのイエス・キリストの苦悩、誰よりもキリストを愛するがあまり過ちを犯してしまうイスカリオテのユダの二人を主軸として、キリスト最後の七日間を描いたロックミュージカル。現代的なモチーフを散りばめた、一切台詞なしのガチ・ミュージカルだ。

 

私が初めてこの作品に触れたのは高校生の頃、レンタルビデオ屋で借りたVHS。

1973年に公開された「屋根の上のバイオリン弾き」で知られるノーマン・ジェイソン監督による映画版のそれだった。

舞台の映画版と思われがちだが実は舞台よりも先に発表された二枚組のコンセプト・アルバムを元にして作られたのがこの映画。

カール・アンダーソンによるソウルフル・ボイスなユダ、奇抜な舞台設定や衣装、何よりテッド・ニーリーの華奢でいて高貴な雰囲気をまとったキリストが最高に格好良かった。

夢中になった高校生の私はさっそくサントラのCDをMDに吹き込んで、木炭でマルスをデッサンしながら何度も何度も聴いたものだ。

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さて、この「ジーザス・クライスト・スーパースター」のDVDは2000年バージョンの舞台を再現した映像作品。舞台の雰囲気はそのままに、役者の細かい表情をすくい上げることに成功している。

中古のDVDショップで見つけ、キリストの笑顔が素敵すぎるパッケージに一抹の不安を覚えたが購入した。

ジーザス・クライスト=スーパースター [DVD]

ジーザス・クライスト=スーパースター [DVD]

 

 安っぽい近未来の雰囲気を持ったセットや中途半端に現代的な衣装は好みの分かれるところだろうか。革ジャン姿のイスカリオテのユダ、タンクトップで登場するキリストに馴染めないようならすぐにDVDを取り出して、おとなしく「パッション」をセットしよう。

かくいう私もテッド・ニーリーのキリストに馴染んでいたため、グレン・カーターのいささか中性的すぎるそれには少し戸惑ったが、見進めていくとやはり役者たちの歌唱力は高く、どの楽曲もいいので見れてしまった。

 

高校生の頃の私が特に好きだった楽曲はピラト提督の尋問を描く「ピラトとキリスト」、ヘロデ王との接見を描いた「ヘロデ王の歌」。…どちらもヴィランソングなのが気になるが、私は単純に楽曲として好きだった(決して反キリスト主義者という訳ではない)。

 

「ピラトとキリスト」のラスボス感溢れる威圧的メロディ、「ヘロデ王の歌」の小踊りしたくなるような小喜劇っぽい楽しさ…。この2000年版のピラト提督は映画版と違って上條恒彦もびっくりのバリトンボイスナチス風の衣装や佇まいがもの凄い。こんな人の尋問だけは絶対に受けたくないと思わせるような迫力だ。

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また、映画版ではフロリダのプールサイドで寛ぐ太った成金みたいだったヘロデ王、今作では派手なキャバレーのオーナー風、歌唱力はさほど高くないがキリストを侮辱しつつ嫉妬する表情は豊かでなかなか良かった。

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ところで30代になった今改めて「ジーザス・クライスト・スーパースター」の楽曲を全て聴いて好みがガラッと変わったことに気づいた。

「最後の晩餐」から「ゲツセマネの祈り」までのドラマチックな流れ、これこそこの作品の到達し得た最高のシーンだと確信した。いろいろ辛い経験を経て大人になった私はどうやらエレゲイアが好きになったようだ。(そういえば「シン・ゴジラ」で街が焼き尽くされるシーンで流れる「Who will know」も大好きだ)

 

「ゲツセマネの祈り」とはキリストが磔にされる前夜にゲツセマネの園で行なった祈りのことで、ものすごーく掻い摘んで言うと神様に対して「あの、私、正直いって磔にされるの嫌なんですけど、本当に私死んだほうがいいんですか?無駄死にではない証拠に、ちょっとでいいから姿を見せてくれません?ダメ?そうですか!もういいよ!わかったよ!死んでやるよ!」という内容の問いかけをするシーンだ(敬虔なクリスチャンの方申し訳ありません)。

人間味あふれるキリストの苦悩をさらけ出した歌唱で、グレン・カーターの絶叫するような、ファルセットボイスが素晴らしい(テッド・ニーリーやスティーブ・バルサモのそれには敵わないかもだけど…)。

 

しかし、敬虔な信者の方からしたらこのミュージカルは相容れないものもあるだろう(実際公開されるたびに色んなところで抗議運動が起きるらしい)

ただ、聖書を読んだこともないし、時々神社をお参りするくらいでまるっきり宗教には疎い、そんな極東の島国の私に「ゲツセマネの祈り」についてちょっとした興味を持つ機会を与えてくれた。それだけでもこのミュージカルの存在価値はあるのではないだろうか。

せっかくのクリスマス、皆様もジーザス・クライストの歌声に耳を傾けてはどうか。映画版もいいです。

 

↓スティーブ・バルサモ版の「ゲツセマネの祈り」。2:55のあたりなんか何度聴いても鳥肌が立ちます。

www.youtube.com