「ウサギと行く横浜・八景島日帰りの旅④~釣り針外しの修羅の顔、恐怖の秒速フィッシング~」
そのあと、我々は「うみファーム」なる施設を訪れた。
「食育」ならぬ「海育」を推進することを目的としたこの場所では、どうやら自分で魚を釣ったりできるらしい。その証拠にこのコーナーの近辺ではスピーカーから「釣って取って食べる♫」とご陽気なメロディが絶え間なく流れていた。
なんだか、「漂流教室」の最後のほうに出てきた廃墟と化したテーマパークで流れてそうなアナウンスだ。しかし、せっかく入れるのだからここは一つ釣り堀体験に洒落込もうと思い入場した。
魚釣り代金620円、「こちらの釣り堀で釣ったお魚は必ず食べて頂きます」と係りのお兄さんに念を押される。
何かの本に書いてあった巨匠・宮崎駿氏が関係者に言い放ったある言葉を思い出す、たしか「なにがキャッチアンドリリースだ!釣ったら食え!」だったと思うが、まさにそんな感じのコーナーだった。
釣りはおろか、釣り堀なんて10年ぶりくらいの私は恐る恐る釣り針に小エビを突き刺すと、怖々と釣り糸を垂れた。
久しぶりの釣りである、内心ものすごく楽しい。
ほんとに釣れるだろうか…。
結果から言うと釣り針を水面に投げ入れてから5秒で釣れた。
私の心の準備など、この弱肉強食の「うみファーム」では待ってはくれないのだ。
静かに釣り糸を垂れて、雲の流れゆくのを眺めつつ魚がかかるまでゆっくりとした時間を過ごす…、といった私の持つ釣りに対するイメージを跡形もなく消し去った。
気持ちのいい海水から突然、人工的な青色のバケツの世界に放り込まれたギンザケはビチビチビチビチと飛び跳ね続けている。
その度にバケツがガタゴトと音を立てて揺れている。
私はなんとか釣り針を哀れな魚の口から取り外そうと試みるが、飛び跳ね続けるギンザケの生命力がそれを阻む。釣りに慣れていない私には大事なのだ。
ウサギの奴は二歩下がったところで「俺は草食だから…」と逃げを打っている、さっきロッテリアでチキンを美味そうに頬張っていたのはどこのどいつだ…。
私は思い切って、がっしとギンザケを押さえつけてなんとか釣り針を取り外した。
イルカショーを見ていたときは菩薩のような表情だった私が、今は「レヴェナント」で生魚を捕まえた時のレオナルド・ディカプリオのような修羅の表情をしていた。
釣ったら必ず食べることを考えると、もう一匹ぐらいしか釣れない…。しかし、それに反比例位して釣餌の小エビは大量に残っている…。
私は内心「頼む…そんなにすぐに釣れるなよ…」と思いながら再び釣り糸を垂れる。
10秒で釣れる。
「レヴェナント」の表情で釣り針を取り外す。
釣り体験終了。
釣り終わるとその魚を「からっとキッチンに持っていく、ギンザケの場合一匹300円で唐揚げにしてくれる。調理するのもまた別で金銭が必要になるのだ(塩焼きの場合600円、)「だったらいっそのことディカプリオのように生で…」と一瞬思ったが、隣の家族連れに引かれると思い自重した。
キッチンは全面ガラス張りとなっており魚の調理工程がすべて見えるようになっている。さっきまでピンピンしていたギンザケ二匹があっという間にホクホクの唐揚げになって登場するのだ。
係留されたボートの中で食する。淡白ではあるが極めて美味であった。修羅の顔になった甲斐があろうというものである。
つづく