「ウサギと行く4泊5日広島旅行~1日目「牛めしウサギと広島走りの汁なし男」後編~」
新幹線に揺られて約4時間の後、新幹線は広島駅にたどり着いた。
広島県のゆるきゃら「もみじまんじゅうのもみもみくん」(想像)に脇腹を揉まれたらどうしようなどという不安を胸に私は初めての広島の大地を踏みしめた。
ホームに降り立った私たちの胸に一つの感情が去来する「あっつい…」。
そう、台風が本州から去ったばかりのこの日は全国各地で高温注意報が発令され、広島市の温度は35度を記録していたのだ。
さっさとホテルへ向かうべく、路面電車に乗る。
路面電車…、東京暮らしの私からするとなかなか乗る機会のない代物なので、なんだか少し嬉しい。地面にめり込んだレールさえ新鮮に見えるというもの。
しかし、慣れない土地での慣れない移動が苦手な私は落ち着きなく周囲を見回したり、何度も路線図を凝視したり、運賃の160円が手汗で湿るまで握りしめたりしていた。
そして夕刻、無事宿泊するホテル(なんの変哲もないありふれたビジネスホテルっぽいホテル)に荷物を降ろすと、「ああ、私は今すっごく遠い広島の地にいるのだ」という感慨が渦巻き、感情が高ぶった。
そして、さっさと着替えると広島の街をジョギングしに出かけた。テンションが上がった時は走るか酒を呑むかに限るのである。それに知らない街を走るのは情報量が多くてとても楽しい。
ホテルは原爆ドームのある平和記念公園の目と鼻の先にあった。私は元安川に沿って走り、遠くから近くから、人類の負の遺産ともいわれる瓦礫を眺める。
言葉は発しないが、それが語りかける人類の業は筆舌に尽くしがたい。
私はそのまま気の向くままに広島の街を走る。原爆ドームからちょっと離れた商店街、そこはどこにある商店街とも変わらない驚くほどありふれた商店街だった。
戦争の残した遺骸のすぐそばに自分の住み慣れた日常があることに、不思議な感覚を感じる。
市内を走っていると原爆ドーム以外にも様々な原爆の爪痕を見つけることができた。教科書で見た手すりの影が焼きついたという橋、たくさんの被害を出した小学校…。当時、被災した人たちの手当てしたという赤十字病院は現在でも立派な病院で、天を突くような高さに驚いた。
うんと汗を流したので、ホテルに戻り、シャワーを浴びる。さっぱりしたところで「腹が減ったな」とウサギがいう、「牛めし食っといてなんだこの毛玉野郎」と言いかけたがそこは我慢して二人でホテルの近くにあった店に入り、汁なし担々麺を食べた。
ネギとひき肉というシンプルな具材ながら、なかなか辛くて美味かった。食後の水が「甘い」と感じるタイプの痺れ系の辛さで満足。
せっかくシャワーを浴びたのにまた少し汗をかいてしまった。調べてみると汁なし担々麺も広島の名物らしい、まったく名物の権化め!とブツブツ言いながら、そのあとの時間はずっとホテルの部屋でアニメーションの作画をして過ごした(家からライトテーブルと大量の動画用紙を持って来ている)。
例えその旅が新婚旅行だろうが、たぶん私は作画作業をする。絵を描かないでじっとしているという選択肢は私にはないのだ。