「お茶漬けの味」
名匠・小津安二郎監督による1952年公開作品。
何事も素朴なものを望む地方出身の夫と、上流階級育ちゆえに夫の凡庸さが何かと気に触る妻、夫婦の気持ちのすれ違いと和解を描く。
小津作品に限らず言えることだけど、古い日本映画は往時の市民の生活を垣間見れて楽しい。今作でも、昭和中期の指で弾くタイプのパチンコや、後楽園球場、競輪場などが映り、興味深い。
序盤、夫に平気で嘘をついては温泉旅行に出かけたり、池の鯉を夫に見立てて「ドンカンさん」などと呼ぶハイソな妻にちょっと苛立つ。
女中さんというシステムのある家庭のこと、家事などをする必要がないとなると、どうしても時間を持て余してしまうのはわかるにしても、愛のないお見合い結婚だったにせよ、夫に対する妻の見下した態度に戦慄を覚える。
ご飯に味噌汁をかけて食べることすら許してくれない女と一生添い遂げるのは、例え相手がナタリー・ポートマンでも無理だと感じた。
しかし、そんな結婚への恐怖も最後のお茶漬けを食べるシーンで吹き飛ばしてしまうのだからすごい。というか映画のクライマックスが夫婦二人でお茶漬けをすするだけというのが凄い。
どんでん返し大好きM・ナイト・シャマラン監督もびっくりのあっさりとしていて、それでいてじーんと沁み入る映画だった。
女中を起こさないようにそっと二人でひっそりとした台所に忍び込み、食べれるものを漁る楽しさ。普段は触れもしない糠味噌の匂いを気にする妻と、そっと手をとってその匂いをかぐ夫、ずっとすれ違っていた二人のささやかな改悟。
さっきまで「やっぱり結婚なんてアルカトラズ刑務所だ!」と嘯いていた私も「夫婦ってちょっといいかも…」と心変わりをせざるを得ない。