新春怪談「姿見」
Nさんが出張で秩父に訪れた際、宿泊したホテルで体験したという話。
最初にその部屋に入った時から、Nさんはあまり良い心地がしなかったという。
空気がどんよりと重く、昼間だというのに薄暗い。特に壁にかかった姿見が嫌に気になったという。
夜、なかなか寝付けずにいると、金縛りにあった。まるで腹の上に漬物石でも置かれたように、まったく身動きが取れない。
ズル…ズルズル…
異様な音に気がつき、恐る恐る薄く目を開けてそれを見た。
壁にかかった姿見から、白い塊がゆっくりと這い出してくる。
Nさんはきつく目を閉じて、心の中で念仏を唱えた。
ズル…ズル…
白い塊がベッドを這い上がり、Nさんの枕元を這い回っている。
「たすけてくれ!」Nさんは叫び声をあげたが、声にならない。
やがてその白い塊がNさんの顔に登り、ズルズルと口に入っていく。
人肌のヌルヌルした物体で口を塞がれ息ができない。
苦しい!と思う間もなく、白い物体は喉を通り過ぎNさんの体の中に入ってしまった。
気がつくと朝になっていたという。
フロントでチェックアウトする際に、そのことを従業員に話すと「やっぱり…」という顔をして料金は半額にしてくれたという。
姿見から出てきた白い物体は、餅のようだったという。
鏡から出てきた餅…
鏡餅…